背中のこり・背中の凝り・背中の痛み
【疾患】
背中の痛みで病院受診すると、X線などで明らかなヘルニアや脊椎の変形もなく、また血液検査などで内臓疾患の異常なども出なければ、診断名としては筋筋膜痛症候群とされることが多いと思います。
病院では「背中の筋肉が凝っているのでしょう」との説明と、牽引やホットパックなどの物理療法を中心に簡単なリハビリの処方と軽い鎮痛剤やビタミン剤がよく出されますが、物理療法だけでは背中の痛みがあまり軽減しないので、病院受診を止めて体を触ってくれる鍼・マッサージ・整体などに通うようになる人も多いようです。
背中の中心辺りの漠然とした鈍い痛みを訴える人が多く、仕事や家事を行っていると背中の痛みや凝りが増してくるという訴えもよく聞かれます。周囲の人からは姿勢が悪いと指摘されることも多く、姿勢を正す(背筋を真っ直ぐ伸ばす)事に注意をするのですが、背中が疲れてくる場合や別の事に集中して姿勢を意識していないと、自然と猫背ぎみになってしまうという人が多いですね。
毎日痛みは持続的に感じており、検査では原因が出ないので「何か悪い病気では?」と不安が強く増している方も多いようですし、原因が分からないから「線維筋痛症では?」などと考え悩んでいる方も多いようです。
【評価と経過】
背部痛や筋筋膜性疼痛症候群などの診断が出ることがありますが、画像的な異常も出難いため医療関係では簡単な痛みの問題と扱われることも多いです。病院を受診しても「湿布をくれるだけ」「リハビリでは牽引や温めるだけ」というように簡単に扱われることの多い問題でもあります。
画像的な異常も出ないが患者本人は背中の痛みを長年感じており、典型的な慢性痛として考え対処することが求められます。
背中の中心辺りの漠然とした鈍い痛みを訴える人が多く、仕事(パソコン)や家事を行っていると背中の痛みや凝りが増してくるという訴えがよく聞かれます。周囲の人からは姿勢が悪いと指摘されることも多く、姿勢を正す(背筋を真っ直ぐ伸ばす)事に注意をするのですが、意識的に背中を真っ直ぐ正していても背中が疲れてくると痛みが増して猫背に戻ります。
背中を見ると腰から首にかけて中心に縦の凹みがあります。この凹みの部分に背骨があるのですが凹みのすぐ両側に筋肉の盛り上がりがあります。これが最長筋と呼ばれる背中の筋肉です。この最長筋に力を入れて筋肉を縮ませることで背中を反る方向へ動かすことが出来ます。背中の筋肉(最長筋)の働きにより重力に逆らって姿勢を正すことが出来ます。
背中の痛みのある人では、この最長筋に筋硬化を起こしている状態が非常に多いです。筋硬化を起こしている状態は基本的に肩こりと同じです。その痛みや凝りを肩ではなく背中の真ん中あたりで感じている状態で、単純に考えると背中の中心辺りの筋肉の凝りと考えて良いと思います。
背中の最長筋を中心に筋硬化を起こしている筋肉はスパズム(持続的な筋肉の攣縮)を生じている状態であり、最長筋は慢性的な酸素不足の状態です。姿勢を真っ直ぐに正すことは背中の筋肉に力を入れて筋肉を縮ませるのですから、慢性的にスパズムを生じている筋肉を縮ませれば酸素不足を促進させ、姿勢を意識的に真っ直ぐ行い続けると痛みや凝りが増加してきます。
背部筋の硬化改善が安定的な痛み軽減にはポイントになります。
背部痛の状態としては大きく分けて以下の違いがよく見られます。
(1)重度の背部痛と筋硬化
背中全体が触ると非常に硬く凝っている、背中を強く指圧したり強く足で踏んでもらっても気持ちいいと感じる程度。背中の痛みや凝りは鈍く弱い感じ(例:ほっぺを強くつねった時のような鋭い痛みではない)で、何十年も毎日のように我慢出来る範囲ではあるが持続的に背中全体(特に背中の中心部位)に鈍い痛みと凝りを感じている。マッサージは強く押されないと効かない。
慢性化による筋硬化の持続が長く、背中の筋肉では長期間(数年〜何十年)の毛細血管の圧迫による循環不良(酸素供給不足)が起き、背中の筋肉・皮膚・靭帯などに分布する神経にダメージを受けて(一部の神経が死んできている状態)いる状態。このため、凝りや痛みの発生する原因として背中の筋肉硬化が存在するが、痛みを伝える神経がマーサージで押される圧力を上手く感知できず、感覚が鈍くなり痛みを感じきれていない状態と考えられる。また、表層の筋硬化も強くなり(背中の表面も硬い)、深部の筋硬結に圧力が伝わりにくいこともマッサージで押される圧力が増す傾向への原因になっている。
(2)中等度の背部痛と筋硬化
背中の凝りは慢性的に感じるが、背中を押されると気持ちいい場所と痛みが出る場所の違いがある。普段から背中の痛みや凝りは持続しているが、仕事などが忙しい日が続く期間などに痛みが増すので、1ヶ月単位の変化で考えてみると強く痛みや凝りを感じる日と弱く感じている日の違いがある。背中の痛みや凝りを持続的に感じ初めて数年程度であり、ここ数年だんだん体が硬くなってきている実感がある。マッサージでは背中を押されると「痛気持ちいい」と感じる部位が多いけど、強めに押されると鋭い痛みが出る部分もある。強くマッサージすると揉み返しが出ることがある。
一つの筋肉全体の筋硬化へ進む前の状態であり筋肉内に出来ている筋硬結(一般的に肩こり腰痛のある人で筋肉内にしこりがあると表現される物)の部位と無い部分の背中の硬さに違いが残っている状態。筋硬結のある部位は押されると痛みとして感じやすく、無い部分は気持ちいいと感じることが多い。(1)の重度症状に比べると背部筋の硬化は弱く皮膚・靭帯・筋に分布する神経へのダメージも少なく圧力を痛みとして捕らえることが出来るので、(1)と同じ圧力では痛みを敏感に強く感じるが、これは神経の活動が正常であり筋硬化もまだ少ない方で、圧力がより深部筋まで到達しやすいためと考えられる。背部筋の柔軟性と伸張性などがまだある程度は維持できている状態といえる。
背中の中心部分に疲労が強い時などに痛みや凝りを強く感じ、背筋を正しているのが辛く感じる。意識していないと猫背ぎみに姿勢がなることが多い。普段は背中の中心より肩や腰の痛みや凝りの方を強く感じている人も多い。普段の生活で感じている背中の痛みや凝りは(1)より強く、押されると感じる痛みは(3)よりは軽いのが特徴として見られます。
(3)軽度の背部痛と筋硬化
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背中の凝りや痛みは時々感じる。もしくは持続的に感じ始めて数ヶ月が経つ。体はそんなに硬くなく柔軟性も維持されている、背中をマッサージされると「気持ちいい」か「くすぐったい」と感じる場所も多いが、痛みのある部分は軽く押されても鋭く強い痛みを感じる。
(2)よりもさらに柔軟性と伸張性が維持されており、背中の筋肉硬化は少なく軽い持続的な緊張状態(触ると突っ張っている感じ)として触れる。筋肉内に筋硬結が出来ている部位は押されると痛みを出すが、同じ筋肉内でも少し場所がずれると神経は正常であり「くすぐったい」と感じる。
生活内で感じる背部痛は(1)や(2)よりも軽く、筋硬結への圧迫で感じる痛みは最も強く感じやすいようです。
背部痛の人は上記(1)・(2)・(3)の症状の何れかに当てはまるのではないでしょうか?
(1) は長期間に渡り背部痛が続いている年配の人に多い症状
(2) は30〜40歳代の人に多い症状
(3) は若い10〜20歳代の人に多い症状。
幼稚園生や小学生低学年の時期は皆さんの筋肉は柔らかく、体の柔軟性は非常によい状態で維持できていたと思います。慢性痛としての肩こりも腰痛も無く、背部痛なども当然無い時期です。20歳を越えると仕事をしている人は多いと思いますが、仕事をするようになってから肩こりや腰痛を感じたり、背中の痛みや凝りを感じるようになることは、痛みや凝りの強弱の違いはありますが多くの人が経験されていると思います。背部痛がある人では上記(3)から(1)へと年数をかけて症状が悪化していくということが見られます。
背部痛は筋筋膜痛症候群に含まれるもので筋硬化が痛みや凝りの原因です。このため、背部筋を如何に調整し安定させられるか、日々感じている痛みや凝りを安定的に軽減するためには背部筋の安定的な弛緩維持(日々の取り組みによる調整)が大きなポイントになってきます。
背部痛が20〜30歳代で強く出ている人(重度)に多く見られる特徴は、学生時に部活動(運動部)をされていない人が多く、運動が嫌いという人に多くみられます。また、現在運動をする機会もなく、運動で汗をかくという習慣が全く無い人に慢性的な背部痛をもつ人が多い感じも受けます。
生活環境や普段からの運動量の低下は背部痛の持続に大きく関わってくる部分で、如何に運動を実施し運動を背部痛のコントロールに利用していくかは重要なポイントになることは間違いないようです。
【症例Aさん】女性・30歳代
背中の凝りと鈍い痛みを訴え疼元庠舎へ来店。病院での検査では異常なし。
Aさん:
「以前より肩こりがあり時々腰が痛くなることもありました。半年ほど前から背中全体の強い凝りというか痛みの様な感じがあり、なかなか痛みが取れません。病院で検査したのですが特に骨に異常もないし「筋肉が凝っているからでしょう」ということで湿布をもらったくらいです。整体とかマッサージにも通ってみたのですが、やった後は少し楽になるのですがすぐに戻って痛みがでます。」
岸川:
「痛みを特に感じる部分はありますか?痛みの増すような姿勢や動作はありますか?背中の痛みは半年前から感じているということですが、痛みは増強していますか?」
Aさん:
「背中の真ん中の辺りが気になります。凝っているというのか?痛いけど強く痛くはありません?表現が上手く出来ないのですが・・・。仕事でパソコンを使用しているのですが、パソコンをしている時は特に背中が辛いですね。半年前から痛みは強くなってはいませんが、同じくらいで毎日続いている感じです。」
岸川:
「パソコンを長い時間使っていると痛みが増してくるようですが、その時は肩こり腰痛はどうですか?仕事中は常に背中が痛みますか?それとも痛みが強く感じやすい時間帯がありますか?」
Aさん:
「午前中は痛みが軽いのですが午後から痛みが増してきます。背中の痛みが気になる時は肩こりと首が突っ張る感じがあります。腰はそんなに気になりません。」
岸川:
「背中の痛みは仕事後半になると疲れて痛みが増してくる感じですか?肩・首の痛みは、背中が痛い時に感じる痛みの強さは他の時間帯と比べて増していますか?背中や肩・首の痛みが増す原因と思われことはありますか?」
Aさん:
「仕事でパソコンをしているのが原因しているのではないかと思います。目も疲れますし、長く座ってパソコンをしているので背中の筋肉や肩・首の筋肉が疲れで凝ってくるからかな?と思います。だから仕事の後半で疲れてくると痛みが増してくるのではないかなと思います。午前中はそれほど痛みや凝りは気になりません。以前に背骨の歪みがあると言われたことがあるので、左右のバランスの悪さも肩こりや背中の痛みの原因になっているのではないかと思います?」
岸川:
「背中の痛みが増した時はどのように対処されていますか?そのまま我慢してパソコンを続けられているのですか?」
Aさん:
「背中の痛みが増してきたら少し作業を止めて体を捻ったり、椅子から立ち上がり少し歩いてみたりしています。作業を止めると一時的に楽になりますね。」
岸川:
「作業を中断すると背中の痛みが一時的に楽になる理由はどのように考えられていますか?午前中は背中の痛みで作業を中断することはありませんか?」
Aさん:
「背中の痛みが増して来ると、背中の筋肉が突っ張っているような凝っているような感じで動かしづらい感じがあります。休むことで背中の筋肉の力が抜けるのかな?休憩でリラックスできて痛みが減る感じがします。午前中は午後からに比べると痛くないので、痛みが理由で途中休憩することはほとんどありません。」
岸川:
「仕事では午前中は楽で後半に背中の痛みと肩こり・首の痛みが増すようですが、休憩し姿勢を変えたりストレッチ(体を捻ったり反ったり)したりすると痛みが一時的に楽になるということですね。休憩で背中の筋肉がリラックスすると楽になることから、背中の筋肉の疲労が大きく影響しているようですが他に影響していることは考えられますか?」
Aさん:
「疼元庠舎HPを見て来たのですが、HPにも書いてあったように普段の運動不足も関係していると思います。運動が大事と思っているのですが、仕事も遅くまであることが多くてなかなか出来ないですね。」
岸川:
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「そうですね、運動不足も痛みを感じている背中の凝りを生じさせる原因の一つと考えられますね。仕事の後半で背中の痛みが増す時は頭が少し「ボー」とするような感覚はありますか?集中力が午前中に比べて少し落ちるような感じです。それと職場での上司や同僚との人間関係などのストレスは気になりませんか?」
Aさん:
「午後から背中の痛みが増す時は集中力も落ちている感じがします。目も疲れてボーとして来る感じはありますね。職場の人間関係はいいと思います。仕事中も人間関係に関してのストレスはほとんど無いと思います。」
岸川:
「仕事への集中力が落ちてくる時は痛みも強く感じていると考えられますね。背中の痛みを午後に感じやすい理由には身体的な原因である疲労による筋肉の凝りに合わせて、集中力が落ちることなども影響していると考えられそうですね?
また、運動不足はそれらの原因を普段から生じさせやすい原因としても繋がっている感じがしてきましたね?」
Aさん:
「そうですね。普段の運動不足と背中の筋肉の凝りと、仕事で体が疲れてなのか精神的に疲れてからなのか?どちらの影響が大きいか分かりませんが、集中力が落ちて「ボー」としてくるのが影響してそうですね。」
Aさんには背部痛と言ってもただ凝っている筋肉を揉んでもらえばいいという発想ではなく、その痛みを強く感じる時には多くの要因が影響しているという状況を振り返って考えていただきました。
背部痛が長く持続している人であればあるほど自分の感じている痛みに対して、どの様な状況(動作・姿勢など)でどのように増強したり軽減するのか?自分の生活様式の問題や精神的なストレスなどの影響まで考え、自分自身が真剣に痛みについて振り返って考えていくことが本人にしか出来ない一番大切な治療とも言えるでしょう。
背部痛(慢性痛)の人は、もちろん長く痛みや凝りが持続しているのですから痛みに敏感になってきます。硬化している背中の筋肉を揉まれて痛みが少しでも出ると我慢できない、運動を開始すると筋肉痛が出るからすぐに止めてしまう。この様な反応が見られることが非常に多いようです。
普段の背中の痛みを持続させている原因は何でしょう?背中の硬化した筋肉の弛緩を進め可能な範囲の柔軟性・伸張性を改善していく努力が身体的な問題への対策として求められます。
多くの長期化した慢性痛(背部痛)を有する人は、背部痛を正しく理解出来ていない、だから適切な対策を継続できない。知識が無いため痛みへの冷静な視点が無い為に、痛みに敏感なまま偏った視点で判断してしまうようです。
だからちょっとでも何かを行って(運動・リハビリ・マッサージなど)痛みが生じると「やる前より悪くなった」と訴え、すぐに痛みが伴うものは中止し一時的な効果と分かっていても楽に気持ちいいものを求める依存的な考えに支配されてしまうことが多いようです。長期間の慢性痛により痛みへの恐怖・不安が強い状態であり、痛みへ敏感な状態が持続していると考えられますね。
依存的な考えに支配されている段階の人ではドクターショッピングとなりいろんな病院や民間療法を移っているのですが、自分が感じている痛みを質問しても「どういう痛みを感じているのか?」「どの様に痛いのか?」など自分の痛みを表現出来ない人が多く見られます。
質問しても・・・・・?「痛い」という単語以外はなかなか出てきません。
何年も痛みに苦しんでいるのに、なぜ「痛い」以外の表現が出来ないのか?自分自身の思考が冷静でなく痛みへの基本的な知識が無いことに気づかなくてはいけません。
もう一度痛みについて考えてみましょう。背部痛も肩こりも腰痛も筋筋膜痛症候群になります。基本的に別物として考え対策を変える必要はありません。筋硬化というのが最大原因なのですから同じです。
では、対策として背中の筋肉を揉んで柔らかくすればいいのか?という単純なものでも無いのです。痛みの部位が肩・腰・背中のどこであろうが、痛みを感じている部位の筋が硬化していてその部位から脳へ痛み情報が伝えられて「あっ痛い」「凝ってる」と感じています。
例えばAさんの様に意識が集注している時間帯は痛みを感じにくく、集中していない時間帯は痛みを感じやすいという経験はみなさんも経験されていますよね?毎日、一日中全ての時間で同じ強さの凝りや痛みを感じている人はまずいないと思います。1日を冷静に振り返れば必ず強弱の差が存在しています。
身体のあちこちから送られてくる痛みの情報を「脳がどう捕らえるか?」で痛みの有無が決まります。痛み情報を脳が捉えて痛みとして意識される場合と、同じように痛み情報は送られてきているけど意識されない(感じていない)場合が生じます。意識の集中した状態でも差が出ますし、同じ程度の怪我でも個々により痛みに対する感受性にも個人差があるようです。
脳における痛み閾値(境界線)の差が個々の痛みの感じやすさ・感じ難さとしての痛みに対する感受性の違いとして差が生まれていると考えられます。
脳が痛みとして感じるか感じないか(意識される痛み)の痛みの境界線(閾値:これ以上の刺激は痛みとして感じ、これ以下の刺激は痛みとして感じないという境界線と単純にご理解ください)があり、これは人により違いがあるようです。
この差には恐怖・不安などの情動の表れ方や、痛みへの知識や過去の痛み記憶などいろんなものが合わさり痛みの感じ方(閾値)の差を生じていると考えられます。
実際に肩こり・背中の痛みがある皆さんの周りの知人でも個々により筋肉の硬化の差はあり、硬くても痛みや凝りをあまり感じていない人・筋肉が柔らかくても凝りや痛みを強く感じている人なども存在していますよね。肩が凝るから・背中が痛いから皆が背中の筋肉がガチガチに硬いというわけではないはずです。ガチガチの方が痛みを強く感じているとは限らないのです。
Aさんは背中の筋肉がどこまで柔らかくなれば痛みが軽減するのか?ということは断定できません。極端に言うと1回のマッサージで出せる背部筋の弛緩反応で脳が感じるか感じないかの閾値(境界線)を下回る可能性もありますし、数回行わないと閾値を下回らないかもしれません。何度行っても下回れない場合もあります。
今感じている背部痛が境界線の下(閾値下)に維持された状態を普段より維持することが、安定的な痛み軽減に繋がるわけです。ということは、ただ背中の筋肉を揉んでもらうだけでは、生活している以上は身体的・精神的ストレスは日々掛かってくるものですから、マッサージにより一時的に筋肉は弛緩しますが時間と共に硬化は戻ってきます。だから「マッサージした時はいいけど数日すると戻る」と言われる人も多いですよね?
慢性痛が長く持続して硬化の激しい人は戻りが早いので、自身の取り組みとして運動やストレッチを継続実施し、普段の背中の筋肉硬化を少なく維持できるように努力して痛みをコントロールしていくことが大切になるのです。
重度の背部痛の人などでは、最初は楽な感じ(痛みの軽減)が数日の持続程度であるなら、痛みが軽減したよい状態の日数を如何に伸ばしていくかの努力が大切です。
その対策はマッサージを週に何度も行うことではありませんし、現在週に何度も整体やマッサージに通い詰めても依存的な姿勢が変化していない人は何も変化していきません。
また、マッサージでは深部の筋肉まで完全に弛緩させることはまず出来ませんし、マッサージで対応できる筋肉は体の一部分にすぎません。完全に深部の筋肉まで刺激を入れ弛緩させる手段はまだ存在しません。だから運動を使用して届かない深部の筋肉や広範囲の筋肉を適度に疲労させて弛緩状態を維持することも重要なのです。運動でしか反応を出せない部分の筋弛緩もあります。
Aさんの様に背部痛が慢性化している人は、マッサージを受け続けていくと今感じている痛みが治るのでは?という発想を捨てて、専門家より筋肉の硬化に対して技術的なサポートを受けながらも、自分で努力し運動を継続してもう一度痛みの感じ難い体(脳が感じない境界線以下の状態維持)に作り直していくという考えが必要なのです。
依存から能動性(自主性)への変換が出来なければ何も前に進んでいけませ。皆さんの周りにも依存的な考えが強い方で、多額のお金と時間を注ぎ込んで民間療法に通いつめたり(2〜3日に1度)、変な宗教の高額な薬を飲んでいるような人がいると思います。これらの人に共通するのは「誰かに痛みを治してもらう」「どこかに私の痛みを治せる人がいるはず」という依存的な強い信念が存在しています。
痛みを長引かせて慢性痛を生じさせている原因は身体の問題ではなく、いつしか自分自身の考え方が原因になってしまっていることは多々あるようです。
こんな話を、冗談を合わせながらAさんとはご来店の度に話し合っていきました。
Aさんの場合は背部筋の硬化、普段の運動不足、午後からの集中力の低下の3点が背部痛を強く感じる原因と予想され、この3点への対策が普段感じている背部痛の安定的な軽減ポイントになってくることが予想されました。
背中の筋弛緩は私のサポートを行っていきますが、当面の目標はAさんの今感じている痛みを閾値下に押さえ込める時間を増やすことです。Aさんが普段の痛みを感じにくくするための工夫や取り組みなどもいっしょに考えて行きました。
身体的な評価としては【評価と経過】に記載している(2)の状態で、背中の筋肉の表面は柔らかいのですが深部は硬化している状態です。背中の筋肉に沿って同じ圧力で圧迫していくと「痛いと感じる部分」と「気持ちいいと感じる部分」が存在しています。背中の筋肉内に硬いシコリ(筋硬結)が存在していますが、この部位を圧迫し筋硬結の形状を小さく維持することで筋肉のスパズム(攣縮)を軽減させていくことが大切です。
しかし、Aさんの様に同じ圧力での圧迫では硬い部分(圧迫で痛みがある部位)と柔らかい部分(痛みはなく気持ちいいと感じる)の差が激しい場合は、筋硬化はまだ強くありませんので、筋肉への圧迫刺激の圧力調整は慎重に進める必要があります。筋硬化も軽度であり筋線維の柔軟性もある程度維持されている段階なので、刺激により炎症が生じやすく初回から数回までのアプローチでは翌日に痛みが出る可能性があります。このことをしっかり説明し、背中の筋肉の状態変化には必要な痛みであることを理解していただき、背中の筋肉への刺激を繰り返し継続していきました。
背部リラックスコース90分を2週に1回のペースを指標に開始しました。
職場では午後から背中の痛みが増してくるということです。長時間のパソコン・長時間の座位姿勢の維持が影響していることは考えられます。Aさんに1日の仕事の中での休憩数やパソコンを止めて机から離れる回数を記録していただきました。すると、午前は体の調子は良いので机から離れることは少なく、午後からは机から離れる回数が多いようです。
Aさん:
「午前は痛みがあまり気にならないのでトイレ以外はパソコンの前から離れることはないが、午後になると背中の痛みが増してくるので気分転換も兼ねてお手洗いへ行ったり、コーヒーを飲みに行ったりとパソコンから離れる休憩が増えますね。自分が思っていた以上に午後からパソコンから離れる回数が多いなと思いました。」
Aさんと話し合って午後からの背中の痛みの増強は身体的な疲労が影響していると予想したので、対策として午前中から時間を決めて定期的(1時間に1回数分程度)にパソコンから離れる休憩を作ることにしました。
Aさんの性格からも仕事に集中すると突き詰めて行うようで、自分で設定した仕事の区切りまで終われば休憩を取るという状態を改め、時間で予め休憩を決めておき時間が来れば仕事が途中であっても可能であれば休憩を取るという勤務の仕方を変えていただきました。
午前から定期的な休憩を取ることで、午後への疲労を軽くすることを目的としました。
また、午後の背中の痛みが増す時は頭も「ボー」としてくることから、集中力の低下から脳の疲労も大きいようです。このためお昼休みは15分程度の仮眠を取ることにし(昼休みの15分程度の仮眠は覚醒後の数時間の集中力を上げます)、午後から背中が痛くなってくる時間帯の近くでは、休憩時に冷たい飲み物を飲む・チョコレート(本人の美味しいと感じるお菓子)などの糖質を少し摂取するということを実施することにしました。冷房・暖房が室内では季節により使用されていますから、休憩では温度差のある場所へ足を運んでみたり仕事の部屋から出て気分転換したりと、いろんなアイデアもAさんからも出てきました。これらも実施してみ ることになりました。
日頃の運動不足は仕事の残業なども影響してなかなか実施できないということでした。私も仕事が遅く終わってから帰って運動するかというと、間違いなくしません。Aさんの気持ちはよく分かります。
そこで、Aさんに通勤や職場のビル内などで階段があれば可能な範囲階段を使用することに決めました。階段の昇りは使用しないで、降りのみ使用し歩くことで決まりました。Aさんも降りならあまり疲れないし継続できそうですね?ということでした。それと、週に1回、休みの前日はウォーキングなどを実施することで決まりました。週に1回は運動で汗をかくという習慣をつけることが目的です。
もちろん運動の取り組みを開始すると2〜3週間は運動後の筋肉痛が出やすいことも説明し、ウォーキングなどの運動量は少なくてもいいので継続(数ヶ月)することを第一目標に設定しました。
3回目のご来店では筋肉痛が少し出ていることを話され、疲れるけど継続しているとのことでした。背部筋へのアプローチは2回行っていますが、普段感じていた背中の凝りや痛みの感じ方が午後は楽になってきているということです。休憩も上手く取り入れられており、お昼の仮眠が凄くよく集中力が落ち難くなった感じがしているということです。
Aさん:
「気になるのはチョコを1つと思って口に入れるけど2〜3食べてしまうということですね。ハハハ・・・」
普段感じていた背中の痛みが軽減してきており、凄く気分も良いようで表情もいい感じです。背中の筋肉へのアプローチは回数を減らしていってよいこと説明し、3週間に1回程度か調子が良ければ1ヵ月に1回程度で実施していくことにしました。また、背部筋を運動により使用するために疼元庠舎でも運動を合わせていくことになり、背部リラックスコース90分からコンディションコースへ変更しました。
体幹(一般的に胴体と言われる部分)部分の筋肉は意外と生活の中では強い力を使うことがありません。この部位への重力や自重を利用して運動したりストレッチしたりと、Aさん自身による動作を利用した運動を合わせて、背中の筋肉を中心に体幹筋のリラックスも合わせていきます。
Aさんはコンディションコースを3ヵ月ほど継続(2〜3週に1回)され、また自分で取り組む運動も継続された結果、午後から感じていた背中の痛みはほぼ軽減することができました。仕事の残業が続く時は背中の痛みが増しますが、疼元庠舎にご来店いただく前と比べると痛みはかなり弱いということです。
仕事やAさん自身の生活内での精神的ストレスなどでも緊張が増し背中の痛みが増すことは一生存在し続けます。体からの痛み情報は常に脳へ送られていますが、痛み情報を脳が閾値下にキープし続けることが出来るように体や気持ちの安定維持に努力していくことが重要だと話しあいました。
現在は、1〜2ヵ月に1度調整のためにご来店いただいています。
【慢性痛対策】
背中の痛みが長期間持続している慢性痛の人は多いと思います。疼元庠舎へご来店されるお客様は10年以上の慢性痛という人の方が多いです。
長期間の慢性痛の人では痛みに対する考え方が偏って依存的な思考になっていることが多いようです、それは医療や民間療法の人間が皆さんの痛みに対する思考を依存的に作り上げていったのでしょう。「この方法で根本から治しますよ!」「痛みが出るのは体の使いすぎだからなるべく歩かないように」など言われていませんでしたか?
・風邪を引いて熱が出て→薬を飲んで→熱が下がり→ウイルスが死に→治る
この順序を皆さんの背部痛だけでなく肩こり腰痛にも当てはめて考えていませんか?
・ 背部痛→薬・マッサージ・整体→誰かに体を治してもらう→痛みの原因(筋硬化)が治る→痛みが改善する。
厳しく言わせていただきますが、大きな間違いです。風邪とは違いますから。
長期の慢性痛では、何年も背中の痛みが続いていて運動量も低下している状態の方がほとんどです。整体・カイロ・鍼・マッサージをいくつも受けて、何かをやると痛みが出るから我慢できない、運動も疲れるし痛みが出るからしない。慢性痛の廃用症候群ともいえる硬化した筋肉に刺激を入れていくのですから、マッサージであろうが運動であろうが初期に痛みを伴うのは当然です。
「楽に気持ちいい」では問題部位を何も触っていない状態ですから、これではいつまでも慢性痛として背中の痛みが続くのは当然です。
背中の筋肉の硬化が完全に治ることはありませんし、組織が完全に治るということは若返るということになります。ありえません!これを正しく理解していることが重要です。
痛みや凝りは自分の努力によりコントロールするものであり、能動性(自主性)がありコントロールできているからこそ、無用な不安や恐怖も軽減し弱い痛み情報を敏感に脳が捉えなくて済むようになってきます。
長期の慢性痛の方は【評価と経過】(1)の症状の方が多いと思います。毎日マッサージをしても筋肉がどんどん柔らかくなることはありませんし、何年も痛みが続いているものを軽減するために数回の技術ですぐに変化が出ることもありません。背中の筋肉を可能な範囲柔らかく調整し、維持するための自己努力による運動の継続を行っていただければ、きっと普段から感じている痛みは安定的に軽減してくると思います。
本気で痛みをなんとか軽減さえたいと考えられているならば、何年も依存的な思考で民間療法に通いお金を捨て「いつまで経っても治らない」と思い続けているならば、1度は自分の努力を前面に出して最低1年は運動を継続して頑張ってみませんか?背部痛をコントロール出来るかは皆さんの考え方と行動に掛かっているのですから。
ぜひ、信頼できるスタッフと共に頑張ってみてください。
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